2015年1月20日火曜日

Lean Startup Update!! 2015

Lean Startup Update!! 2015 (リーンスタートアップをアップデートする会)に参加してきました。

リーンについては、エリック・リースさんのリーン・スタートアップを読んだり、去年Janice Fraserさんのワークショップに参加したりして、その考え方や有効性は理解していました。日本でもLean UX Circleといったものができて、日本企業にもリーンを広めるという活動が行われていることも知っていたので、今回のアップデート会で具体的にどんなことが進行中なのかを知りたいと思い、参加しました。

品川のマイクロソフト本社で行われた今回のイベントは、六つのプレゼンと懇親会で構成されていて、冷蔵庫いっぱいの飲み物(ビールもありました)が自由に飲めたりと、良い雰囲気でした。日本でリーンを広めていこうという趣旨が基になっているからか、参加者同士の交流を重視する雰囲気で、プレゼンも良いけどみなさんぜひつながることでリーンの外圧を作って行きましょうと言われたりしました。私も社内・社外の色んな方にあえて、様々な意見が聞けてよかったです。


日本でのリーンの普及に多大に貢献しているプレゼンターのみなさんのお話も大変有益で、何度も「なるほど、そういう風に考えることもできるんだ!」と思いました。プレゼンのスライドは全てイベントのページに公開されているので、詳細を知りたい方はそちらを参考にすると良いと思います。たくさんの気付きと発見があった六つのセッションの内容を私なりにまとめてみました。

TOCから俯瞰するリーンスタートアップ  河合太郎

TOCというのは「制約条件の理論」とも言う。スコープ全体のボトルネック(制約)がスループット(生産性)を決めるという理論である。この考え方で最適化を行っていくとすると、スコープ内で最も弱い部分(ボトルネック)見つけて、それを強化するという活動を続けていくことになる。リーンという考え方もTOCと重ねて考えることができる。例えば、「何をすればいいかわからない」というボトルネックが見つかったら、リーンキャンバスを書いてみると良い。様々な方法論は課題を解決するための違うアプローチ。TOCやリーンに限らず、色々な見方をしてみると本質をとらえるに役立つだろう。

リーンスタートアップ導入の現場  黒田樹

前回サービスを拡大しようと増員したら、炎上してギズギズになったものを鎮火したという内容の発表をした。今回の発表はその続き。様々なリーンの有名な人と話してみた結果、重要なことは「無駄のない判断をすること」だと思った。無駄のない判断をするためにはMVPという考え方が役に立つ。リソースを投じて検証しなくても、ちょっとした実験でわかることはたくさんある。仮説を立て、アジャイル開発し、結果を分析することを徹底的に回してみた。計画を立てるときは、Build -> Measure -> Learnのサイクルを逆に回す。何を学びたくて?何を検証するといいか?そのためには何を作るか?と言った感じ。これを繰り返していくと、やらないことが最大化したり、グロースハックが定着するといったチームの役割の変化が現れる。

Lean UX Quest in Tokyo  坂田一倫

このセッションで話された内容は坂田さんのブログによくまとまっているので、それを読むと良いと思います。海外のリーンの師匠を招待してリーンを体験してもらうワークショップを開いたり、様々な企業でワークショップを開いてCPS検証・MVP実験を広めたり、Lean UX Circleを立ち上げて実際に企業にリーンを普及させ、その結果を共有する活動をしてきたとのことでした。これからもこのような活動は続くらしいです。

Lean Analytic  角征典

Lean Analyticsの日本語版が1/24発売される。今日はその宣伝も兼ねて、主要KPIを決めたり、データの分析をするときのポイント三つを紹介する。一つ目は、ダメな指標を避けること。自分が知りたいデータばかりを集めても意味がなく、知りたいのは何か?知らないのは何か?を見極める必要がある。やりすぎなくらいコスト削減を強いられる指標や、改善の余地がないKPIを追いかけるのは良くない。二つ目は、ビジネスモデルとステージにあった指標を選ぶこと。ステージについては、まだ定着していないのにむりやり拡散をしようとしても逆効果。最後は、OMTM(最重要指標)だけにフォーカスすること。リソースを集中させ、最も重要な質問の解を得ることができるようになる。

実録!現場におけるLeanStartupの実践  冨山香織

社内でリーンの導入において相談に乗る活動をしている。Lean Startupを導入する背景としては、1. 新規開発 2. 正しいものを作れているのか確認したい 3. 既存の考え方から脱却したいというものがある。新規開発の場合は、企画書を疑い、顧客層を明確することで課題を洗い出した。このときにハマりやすい穴は、効率の悪いピボット(AもBも微妙だからXで行こうぜ!)や、ユーザーよがり(ユーザーが言うことに振り回される)といったものがある。既存の開発に向けては、仮説を立ててそれを検証し続けるような仕組みを可視化して、薦めた。仮説を立てることが難しいという意見もあったが、仮説シートを作って簡潔に作成するようにしてみた。既存の考え方から脱却したい場合の事例は、試行錯誤中。でもボトムアップで勝手にやっちゃうと良いと思う。

人間と話す Lean Customer Development  馬田隆明

スタートアップは失敗する。その最も多い理由は「ニーズがない」ことである。人々のニーズを見つけるためにも、検証するためにも、インタビューが有効。それがLean Customer Development、つまり製品開発の前に顧客とビジネスモデルを検証して、失敗を少なくするための方法論である。Y Combinatorが出資した企業の成功が注目を浴びていて、その社長の信条もやっぱり「人が欲しいと思うものを作れ」である。人が欲しいと思うものを知るためには、きちっと話す必要がある。特に学ぶ、洞察を得る、ビジネスモデルを検証することが重要。「この製品(機能)、いいと思いませんか?」のようなピッチに対してはほとんどの人が同意してしまう。あまり良い聞き方ではない。インタビューのこつは、話すより聞く、オープンな質問をする、事実や具体的なプロセスを聞くといったことがある。「人間と話す」ことは顧客開発の基本。

リーンというのは「ただブランド化されたもの」といった批判もあったりするけど、その本質をきちっと見極めて、適切な場面で手段として使うと少ない費用で大きい成果を導きだすことができると私は考えています。今回の話では、源流はリーンだけど、スコープの捉え方、KPIの設定の仕方、実際のプロジェクトへの導入の失敗談、インタビューのこつなどなど、実際のものづくりに役立つ情報がたくさん得られて良かったし、リーンそのものが正解であり真理である訳ではなく、見通しをよくしてくれる一つのパースペクティブであり、柔軟性を持つアプローチだと考えるとすごく理解しやすかったです。私も自分の業務で、どのようにリーンを組み合わせて導入していくべきか、じっくり一人戦略会議を行う良いきっかけになりました。

これからの活動も楽しみにしています。

2015年1月17日土曜日

TED 驚異のプレゼン 人を惹きつけ、心を動かす9つの法則

TED 驚異のプレゼン 人を惹きつけ、心を動かす9つの法則を読みました。

本の中には人に薦めたくなる本もあれば、中身が有益すぎてあまり人に教えないで自分だけの秘密にしておきたい、そんな本もあります。この本は絶対に後者でした。が、あまりケチなことを言ってないで良いものはどんどんオープンにすべきと思ったのでこのポストを書くことにしました。TEDのモットーは「Ideas worth spreading」としているけれど、そのTEDを題材にした本書もまた「広げる価値のある」良書でした。

この本はTEDの名プレゼンを分析して、その共通点を9つにまとめています。その中には、そんなの当たり前じゃんとも思えるけど「法則」として規定することによってもう一度よく考えるきっかけを与えてくれるものもあれば、普段まったくそういう風に考えたこともなかったなぁという新しい気付きを与えてくれるものもありました。9つの法則というのは、簡単にまとめると1. 自分が好きで情熱を持っているものを 2. ストーリーで伝え 3. 事前の練習でたくさんのフィードバックを得て 4. 人々が知らなかった新しい話をして 5. 感情に触れるびっくりの瞬間を作り 6. 適切なユーモアを駆使し 7. 短い時間で要点を伝え 8. 五感に訴え 9. 自分らしく生きるということでした。どの法則の話でも実際のTEDの例をあげて説明していたので、途中でネットでTEDを見ながら読み進めることができたので楽しかったです。

ストーリーを提示する、五感に訴える、といったどちらかというとテクニックに近いものも勉強になったし、自分もやってみようと思いましたが、自分が好きなものに熱中していて、自分らしく、自分が発信したい話をすることで、観客はその真実味を感じてくれるという話が特に心にしみました。振り返ってみると、今まで聞いてきて心躍ったプレゼンは全て話し手が自分が好きな話をしていたんだなということに気がつきました。こんな当然なことをなぜ今まで考えたこともなかったんだろ?また、パームスプリングズに行ったときに、Jonah Lehrerが「書くことに対する愛」を語っていて感動したことも思い出しました。人に良い影響を与える人はみんな、自分が何かに情熱を持って真摯に取り組んでいるということに気がついて良かったし、私も今好きな仕事をしているので、もっともっと好きで面白いことをたくさんして、それでまわりに影響を与えていけるといいなと思いました。

この本であげている上手いプレゼンはどれも面白かったですが、個人的に最も熱中して見てしまったのは、マルコム・グラッドウェルのパスタソースの話でした。私の仕事とも関係するところがあり、人々は自分が欲しがっているものをわかっていない、という単純な事実をとても面白い実例を用いて話をしてくれます。日本語字幕版はこちらから見ることができます。

 

2015年1月10日土曜日

Lean UX ーリーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン

Lean UX ―リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン (THE LEAN SERIES)
を読みました。

青いリーン(エリック・リースのリーン・スタートアップ)を読んで、学べるものがとても多かったので、リーン・スタートアップの考え方とUXデザインを合わせるとどうなるんだろうというのが気になって購入してみました。感想としては、青いリーンは新しい発見が多く、ものづくりに対する考え方が私の中で劇的に変わったきっかけになりましたが、白いリーンはどちらかというと既にわかっていたものの再確認が多かったです。自分が成長したのか、本書の特徴がそうなのかはよくわかりませんが、個人的には新しいものを学んだというよりは現状の振り返りに大いに役立ちました。

現状を振り返る上で最も参考になったのが、3つの基盤と15の方針でした。3つの基盤というのはデザイン思考、アジャイル開発、リーン・スタートアップの三つです。15の方針としてはチームのありか(横断的、小規模、課題重点型、共通理解を持つ)から、プロセスの進め方(無駄を取り除く、バッチサイズを小さく、仕事の外面化、分析より形にする、中間生成物中心からの脱却)やマインドセット(失敗を許容する、ヒーローじゃなくてみんなでやる、アウトプットよりアウトカム、ビルから出る)まで、リーンを実行する上の様々な基準が定義されていました。この15の方針に現状のチームやプロセスを照らし合わせてみて、満たされていない項目を少しずつ改善していくのが、ユーザーの声をいち早く取り入れられる良い仕組み構築につながると思いました。

プロセス編はかなり細かく、具体的なワークシートなども用意されていて、課題ステートメントをどのように作成すると良いかとか、デザインスタジオをどのように進めると良いか(配る紙のサイズまで指定していたのには驚いた)、スタイルガイドをどう作ると良いかなどが書かれています。また、様々な種類のMVP(充実度が底〜高のプロトタイプやメールやランディング・ページのような非プロトタイプ)が紹介されていたり、リクルートやスケジューリングを含む定性調査の仕方が紹介されています。チームやプロジェクトには各々のコンテキストがあると思うので、ここに書かれているものを全て実行すればいいという話ではなく、この中で現状に最もフィットしていて、現状の課題を解決してくれるものをいくつか選んで賢く使っていくと良いと思いました。

実践編ではLean UXの実現(主に、頻繁なユーザーインタビューからのフィードバックをどのように取り入れるか)をアジャイル開発にどのように組み合わせていくと良いかの提案が書かれています。失敗例として、スタッガード・スプリントモデルが紹介されていて、このモデルだとデザイナーが作ったものを開発者に流すやり方になってしまうので、コラボレーティブなチーム作りができないことが問題だと指摘しています。本書は各イテレーションに一つのテーマを設定して、みんなで計画・実行・評価することでより優れたチームを築くやり方を薦めています。

通して、この本で得られた大切な気づきとしては「アウトプットではなくアウトカム」「コラボレーティブ・デザイン」の二つです。日頃から何かドキュメントを書かないとアウトプットを出してないような後ろめたさのようなものがありましたが、この本を読んでドキュメントを書くのにかかる時間をもっとアクティブ・ユーザーが増えたとかユーザーの満足度が高くなったといった実際の成果(アウトカム)を導くために投資しようと思うようになりました。また、デザイナーとして、イメージファイルのようなアウトプットを出すことよりも、チームのみんながクリエイティブにアイディアを出し合う環境を作るためのファシリテーション、つまりチームやプロセス、環境のデザインにより力を入れていこうと思いました。