2014年11月27日木曜日

UI Crunch #2




UI Crunch #1に続き、UI Crunch #2をスクーで受講しました。今回のテーマは「デザイナー不要論について語る」。ウェブサービス開発の現場におけるデザイナー不要論と5〜10年後の生存戦略が業界で話題になり、それ以来デザイナー不要論について色んなところで議論が行われたりして、関心が高まっていることを私も体験してきました。今回のUI Crunchは既存の「デザイナー」でいつづけるのではなく、何かを武器にすることでいかに自分を価値を高めることができるかという話がメインでした。(実際、不要論をテーマにするために、もともと準備してきたテーマを延期にしたとのことです)

それぞれのプレゼンについて、内容を簡単にまとめてみました。

UIデザイナー最終防衛マニュアル - Taiki Kawakami(Λ Structure Design/Designer)

UIデザイナーが現状を変えたいときにできることは、短期的には四つ。革命、転職、独立、趣味。長期的には啓蒙を行ったり、UIのコードに当たる部分(Wireframeだとか、Prototypeのようなロジックがわかるもの)を公開すると良い。自分でGunocyをリデザインしてみたが、その記事がバズった。その理由はやっぱりデザインにきちっと意図を加えていたからだと思う。デザインの裏にある「意図」を明らかにすることで理解されるようになる。

風呂場で考えるUIデザイナーの未来 - 上谷 真之(nanapi CCO/Designer)

風呂場で、つまり服を脱いで(=既存の考え方、フレームワークから抜けて)自分のことを考えてみた。こわす、ならべる、もどす、のプロセスで新しい自分に気づくことができた。肩書きも会社の名前も取っ払って、自分起点に物事を考えてみた。自分を会社や社会にあわせるのではなくて、環境を自分にアジャストすると考えると「おにぎりデザイナー」というタイトルが出てきた。肩書きはどうでもいいもの。自分でやりたいことをやりましょう。

UIデザインの価値 - 吉田 健吾(トレタ COO)

デザイナー不要論について、ブログを書いた。UIデザインはユーザーとの接地面であり、UIデザインが使えなかったりしてユーザー体験を害してしまうと意味がない。飲食店の例をあげると、従業員はみんな忙しくてなかなか電話に出られなかったりするので、電話しながら片手ですぐ操作しやすいiPadのアプリを作った。UIの使いにくさは全てコストに直結する。しかしりん議では多機能や低価格のようなものに比べて、デザインは大切に扱われてない。「UIなんて一年あればなれる」なんて言われたりする。現場で実際どのように使われるのかを根拠にしてデザインの価値を訴えたり、競争力として価値を証明していくことが重要。

経験に基づく「UIデザイナー」の必要性 - 藤川真一(えふしん)(BASE CTO/取締役)

エンジニア出身でウェブ業界は長い。かなり前から、営業で重要な仕様が決まり、制作部門が不満をかかえ、納得いかないので自分たちのコストで作っちゃって、開発部門がとばっちりを受けるといった悪循環が起きていた。そのような環境の中での、自分の昔の愚痴を紹介したい。デザイナーに求められる能力はグラフィック力だけではなく、「設計」できることも重要で、ウェブに興味を持っていること(=ゲームをやっている)も重要だと考えた。今もその基準は当てはまっていると思う。BASEで求める人材もそのような人。


デザイナー不要論でざわついているデザイナーがたくさん参加したところで、「実は不要な訳ない、自分の価値を高める努力をすれば必要なはずだ!」というよく考えると当然でもある話が多かった印象はありますが、当然のことだからこそどうすれば良いのかわからないというオーディエンスの悩みも伝わってきて、実際「給料をあげるためにはどうすればいいですか?」「採用の基準を教えてください」といった生々しい質問が飛び交っていたのも大変面白かったです。そのように質問に対して、決して現状をはぐらかしたりせず、パネルのみなさんの実際の経験に基づくためになる話がたくさん聞けてよかったと思います。

例えば、給料をどうすればあげられるかという質問に対しては、BehanceやDribbleに半年間投稿し続けると必ずオファーがくる、なんなら僕が会いに行きますという熱い回答が返ってきたり。日本では会社に対する守秘義務があるので自分で制作したものを社外に公開してはいけないという雰囲気があるけど、それは健全じゃないので業界的に変えていきたいという話もあって、大変共感しました。

UIデザインに関わる様々な業種の人(といっても、主にデザイナー)が集まって、現状を冷静に見つめた上で、これからのことを考える場が今まであまりなかったと思うので、このようなイベントが開催されていること自体もすごく有意義なことだと思いますし、さらに他社事情のようにすぐ使える実践的な話が聞けたこともよかったです。この取り組みがどのように変化して成長していくか、これからも楽しみにしています。

関連記事
第2回 UI Crunchレポート「UIデザイナー不要説について語る」

2014年11月5日水曜日

RE:DESIGN/Creative Directors Day3

今日でコンファレンスは終わりです。今日は午前中に三つのセッションがありました。

Ti Chang - We’ve Come A Long Way

初日のディナーで、Tiさんとは同じテーブルに座ることになり、彼女の犬の写真を見せてもらったり、その後も他のセッションで一緒になったりして、とても魅力的な人柄の人だと思ったので、どんなセッションになるのか気になって参加してみました。

"Hello, I am a sex toy designer"ではじまるプレゼンテーション。100年前には女性の性欲は病気とみなされ、お医者さんが女性の性器をマッサージして"治療"する過程でセックス・トイの原型となるものが使われた。その後ポルノ映画が発達し、セックス・トイは治療の道具ではなく快楽と関係するものであることを大衆に理解されはじめたが、公に話すことはタブーとされてきた。Tiさんがセックス・トイをデザインした理由は、ものづくりの全てのプロセスに参加したかったのと(そのために会社を立ち上げたとのこと)、また女性のために役に立つことをやりかったからだそうだ。あきらかに男性の視点でデザインされた色違いの大きいディルドではなく、本当に女性たちが使って喜んで恥ずかしがる必要のないものを作ろうとした。それでできたのがCraveの製品群である。

確かにこのデザインなら恥ずかしがる必要もない

彼女はもうセックス・トイを使うことを恥ずかしがる必要のない、Modernな時代が到来したと言っていましたが、セックスについて話すことはもちろん若者がセックス自体やらなくなった日本社会から来た私にとっては、そのような時代が来たんじゃなくて、彼女のような鋭い問題意識を持った人々がそのような時代を作り上げているのだと思いました。

Stanley Hainsworth - Ten Years Of Instant Change

10年間のトレンドの変化でも見返すものだろうかと思って参加したのですが、想像したものとまったく違う形のセッションでした。ラウンジに入ると椅子が丸いレイアウトで配置されていて、お互いの肩をぶつかるくらいの狭さ。Stanleyさん曰く、AA(アルコール中毒のための匿名の集まり)のようなスタイルでやるとのことで、実際その通りでした。

Stanleyさんの個人的な体験の話からはじまる。LAで俳優になろうと思って暮らしていた。しかし突然親戚の一人が事故を起こし、その奥さんは死亡、本人は収監され、その夫婦の二人の子供をいきなり引き取ることになる。それをきっかけに、人生のパスが一転。キャリアパスも俳優からデザイナーに変わった。このような変化を括りぬけてくる際に、自分の幸いな無知(A blessed ignorance)が役に立ったと思っている。みんなも自分の人生を変化させた、できごとや気づきのことを共有してほしい。

実に様々な体験や気づきがその場で共有されました。これは私にとってはとても驚きで、コンファレンスというのは知識や洞察を共有する場だと思っていたのですが、このようにとても個人的な体験や感情まで共有することが可能であることに深く感動しました。最後に気づきを共有した人は、ベルギーに行ったときに2000種類のビールを見て興奮し、「誰かがこのビールをデザインしている」ことに気がついたと言います。そして、自分が好きなことをやるためにスタジオを作り、今は大好きな食品を扱う仕事をしていると言いました。デザイナーは世の中のみんなに対して、責任を持つとも言いました。なぜなら、彼がベルギーで体験したように、誰かがデザインしたものを他の誰かが触れるからです。この話は特に目から鱗でしたが、他にもたくさんの話を聞くことができて、自分の人生で起きた変化についても考えることができました。

Jonah Lehrer - On Failure

ここで出会ったみんなに私はCreative Directorのことはよくわからないけど、ラインナップの中で有名な人はいるの?と聞いてまわると多くの人がJonah Lehrerさんのファンだと言いました。The New Yorkerなどの著名なメディアに長く寄稿し、幅広いファンがいるようです。

今回のコンファレンスの進行やプログラムのアレンジなどを担当したChristopher Simmons(左)とJonah Lehrer(右)

マイリトルポニーというアニメを見ると、ポニーたちはお尻にタトゥーをいれている。それはポニーたちのアイデンティティーそのものである。そのタトゥーを見つける方法は一つしかない。私たちがそれを愛するかどうかだ。それはまるで下着のようなもので、意識してなくても常に自分に密着しているものであり、またそれはロメオとジュリエットと一瞬で燃え上がる恋とは違って、人生をかけてやり続けることでなければならない。Jonahさんの場合それは書くことだ。2年半ほど前に、剽窃のことで騒動になり、一度は書くことを辞めようと思ったこともある。しかし気がつけばまた書いていた。それが何かを愛するということ。また、そのときの失敗で気づいたことも多かった。楽で簡単というのはいつもベストなやり方ではない。何かを創造するということは大変なことであり、苦しいプロセスや失敗を抱擁することで良いよいクリエイターになれる。

変化に適応する能力だけではなく、変化しない何か(愛する何か)を持つことの重要性についてあまり考えたことがなかったなぁと思いました。マイリトルポニーから人生の哲学を導く洞察は素晴らしいものだと思ったので、これからは彼の寄稿などをチェックしてみようと思いました。

2014年11月4日火曜日

RE:DESIGN/Creative Directors Day2

昨日に続き今日は六つのセッションがありました。

Everett Katigbak - Seeing With Sound

ミュージシャンとして、キュレーターとして、環境デザイナーとして、様々なキャリアを経験してきた。facebook時代は、環境デザイナーとして活躍しながら、ミュージシャンとしての才能を活かして、テーマ音を作ってダイヤル音に採用されたりした。pinterestではブランドマネジャーとして面白いコンテンツを作って発信したりしている。ヒッチコックの映画『北北西に進路を取れ』のワンシーンをノーサウンドで与えて、みんなで推測して録音するアクティビティ。最初なみんな戸惑っていたが、なかなか面白いものができあがった。

Josh Higgins - Words As Flint

facebookのコミュニケーションデザインマネジャー。アーティストとして、使命感を持って自分がやるべきだと思うことをやってきた。その一つとして、オバマ大統領のポスターを制作してキャンペーンで使われたこともある。「好きなことをやって、世の中の役に立つべき」という名言を聞いたからこそこのような活動ができた。まわりのクリエイターから聞いた彼らの人生に影響を及ぼした名言の紹介(Tweets 1 2)。 それからセッションに参加したみんなにとっての名言のシェア。

Alissa Walker - Sidewalk Critic: Exploration, Observation, and Mid-Century Modern Architecture

GizmodoのUrbanism Editorとして活躍している。例えばLAで車を持たずに暮らすにはどうしたらいいのかを身をもって探求したり。今日はパームスプリングス周辺を歩いて、みんなで気づいたことをシェアし合おう。このへんの現代的な建築群については、ネットで調べるとすぐ出てくる(article)。

この形の屋根を"The butterfly roof"というそうだ

George Slavik - Adapting To The Job

与えられた役割をこなすということについて、ワークショップ形式でみんなに体験してもらう。4人か5人でチームを組み、それぞれのメンバーにはバンドの一つのポジションが与えられる。例えばヴォーカリストは、ペンを使うことができる。ドラマーは時間管理をして、ハサミを使うことができる。ベーシストは糊が使える。こうやってみんなで自分の役割を守りながら協力して、自分たちのバンドのコンサートポスターを作りあげる。

バンドの名前"The Hellveticas"には笑った…

Jay Jurisich - Bacteria, Brands and Ballyhoo

言葉というのはバクテリアとも似ている。最初は慣れない言葉を人々は受け入れようとしないが、一度抗原が作られると、マイナーだった言葉が一気にメジャーになったりする。様々な企業のブランド名をつけてきて得た名前や言葉に対する洞察について。例えばVirgin Airlines。最初に航空会社の名前として"Virgin"を言い出した人は誰だろうか。しかし今考えるとやったことのないことに挑戦する企業の意気込みがよく表れている。このように新しくつけるブランドの名前は半分破壊的で、半分受け入れられるようなものがちょうど良い。

Lawrence Azerrad - Design + Music

音楽を視覚化することについて。キャリアとしてRed Hot Chili Peppersの『Californication』のジャケットのデザインをしたり。メンバーが夢で見た、空が海になっている風景がもとになっている。今日はアルバム・リーフのジミー・ラヴェルに来てもらい、音楽を生で演奏してもらって、実際聴きながら音楽を視覚化する作業をしてみる。


さすがデザイナー集団であるだけのことはあって、
あっという間に素晴らしい作品が広がる。左は私の作品。

楽しい1日だったのですが、UX Designerの集まりに比べて、これこれを学びました、知りましたというまとめはしづらい感じです。どちらかというと、その場にいるからこそ得られることがたくさんあり、実践的というよりは体感的なセッションが多く、即席で出てくるアイデアやインスピレーションにたくさん触れたことでなんだかアーティスティックな気分です。明日は午前中に三つのセッションがあってコンファレンスは終わりです。

2014年11月3日月曜日

RE:DESIGN/Creative Directors Day1

Creative DirectorsのためのコンファレンスでPalm SpringsのACE Hotel & Swim Clubに来ています。

RE:DESIGN/Creative Directors

RE:DESIGNコンファレンスはリデザインという大きいテーマのもと、他にもUX DesignやInterior Design, Inspireといった狭いテーマを持って開催されていて、私は今年の四月にUX DesignerのためのRE:DESIGNコンファレンスに参加しています。

なぜ今回Creative Directorsの会にも参加するかというと、単純に前回のBlooklynでのRE:DESIGNコンファレンスが楽しすぎたからです。小さいグループでの開催、会話中心のセッション、多様なアクティビティがとても楽しかったので、今回も休み気分半分で人と出会ったり、美味しいものを食べたり、面白いホテルを楽しむ目的で参加しています。

特にCreative Directorsについては、企業のブランドイメージ構築などを担当するどちらかというと広告やマーケティングをバックグラウンドに持つデザイナーのことだと理解していますが、あまり多くの知見はないのに、この"Creative Director"という役職の人と働くこともあったりして、今回のチャンスで理解を深められたらなと思いました。

参加の決め手となったもう一つの理由が、場所です。パームスプリングスは昔から一度行ってみたかったし、ホテルには大きいプールもついていて、デザインも独特でイベントもたくさん行われているようで、写真を見るだけでウキウキしたので、コンファレンス参加を言い訳にして楽しい時間を過ごしてみたいと思いました。


初日は17時半からの受付で、レモネードを飲みながらみんなと歓談、その後キーノート、その後ディナーしてワインを飲むといったプログラムでした。少なくとも10人以上の人と話すことができたのですが、だいたいの感想を言うとやっぱりCreative Directorという役職を持つ人が多いけれど、グラフィックデザイナーやアートディレクターといったデザイナーも多かったのと、年代としてはUX Designの会に比べると少々高めかなと思いました。企業のブランドイメージ責任者だから、あとは広告という昔ながらの産業を引き継いでいるから、当然のことかもしれません。

今年のテーマは「Adaptation」、直訳すると「適応」ですが、何がどう変化しているか、その中でCreative Directorsができることは何かを集中的に話し合い、スピーカーや参加者の視点を分かち合うことが今回のコンファレンスの主な目的ではないかと思いました。キーノートでは、変化する女性のリーダーシップやそれに伴う課題についてSu Mathews Haleさんからお話を聞きました。

Keynote Conversation With Su Mathews Hale

適応するということとは何かを自分の人生のことと供に率直に語ってくれました。アイランド系アメリカ人夫婦に養子にされ、自分を白人だと思っていた子供時代のこと、キャリアを積み上げるときに女性として体験した様々な不条理、最近子供を生んで体験した変化のことなど。

広告を勉強していた時代は、まわりに女性がいなくて自分一人だった。現在勤めている会社にも、シニアパートナーが20人いるが、その中女性は3人しかいない。男性が定義したリーダーシップのクライテリアは変化されつつあり、女性が能力を発揮できる場がたくさんあるが、実際リーダーシップをとっている女性の数が足りないし、パワフルな女性に対する世間のイメージもひどいものである。

女性らしいことをビジネスで良からぬものを見る視点や、女性らしいというコンセプトそのものを定型化する視点はこれから変わっていくと思う。既にそのような活動に取り組んでいるデザイナーやアーティストは多くいる。

実際のキーノートの中には、Suさんが体験した女性だからこその出来事をたくさん紹介しています。私もエンジニア時代「女の子がそんなのできる?」という人に飽きるほど会ってきたので、Suさんの話にとても深く共感することができました。女性だからこうだとか男性だからこうだではなくて、多様な視点を取り入れて強い企業なっていくためには女性も男性も女性っぽい男性も男性っぽい女性もみんな必要という人間に優しい企業カルチャーが大事であることを踏まえて、多くの日本の企業も働く環境を見直してみる必要があるのではないかと思いました。

みんなが薄々感じてはいるものの、あまり深く考えたことのないトピックについてもう一度考えてもらう、とても良いチャンスだったと思います。残りセッションもこのような鋭い洞察の共有ができるといいなと思ってます。楽しみです。